ヘッジファンド

レイダリオの設立したヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」の「Pure Alpha」ファンドの運用実績を紐解く!

ブリッジウォーター・アソシエイツ(Bridgewater Associates)は、1975年に著名投資家レイ・ダリオ(Ray Dalio)氏によって創設されたアメリカのヘッジファンド運用会社です。

現在本社はコネチカット州ウェストポートにあり、世界最大規模のヘッジファンド運用会社として知られています。

運用資産総額(AUM)はピーク時に約1,500億ドルを超え(2021年)ましたが、その後一部資金を投資家に返還した結果、2024年時点では約920億ドルとなっています。

 

同社は主に機関投資家(年金基金、政府系ファンド、大学基金、中央銀行など)向けに運用サービスを提供しており、長年にわたり投資家にもたらした累計利益額は約558億ドルにのぼると報告されています。これは歴史上最多レベルで、ブリッジウォーターは「史上最も投資家に利益をもたらしたヘッジファンド」とも称されています。

創業者のレイ・ダリオ氏は「プリンシプルズ(Principles)」と呼ばれる独自の経営哲学で有名で、組織運営や投資判断において徹底した合理性と検証を重視してきました。

ブリッジウォーター社内ではオープンで透明性の高い独特のカルチャーが築かれており、社員同士が率直に意見をぶつけ合うことで知られています。ダリオ氏は2011年頃から一般向けに自身の運用哲学を公開し、著書『Principles』は世界的なベストセラーになりました。

なお、ダリオ氏は2022年に自身の持つ議決権の過半を手放し、経営の第一線から退いて後進に引き継ぐ計画を進めています 。

ブリッジウォーターの戦略は大きく二本柱があります。一つは今回取り上げる「Pure Alpha(ピュア・アルファ)」という積極運用(アクティブ)戦略、もう一つは「All Weather(オール・ウェザー)」という資産配分重視の戦略です。

 

All Weatherは1996年に導入されたリスクパリティ戦略で、市場の上下(ベータ)に左右されにくいポートフォリオ構築を目指すものです。

一方、Pure Alpha戦略は市場リスク(ベータ)要因を極力排除し、純粋な超過収益(アルファ)の獲得を追求するブリッジウォーターの旗艦戦略であり、ヘッジファンド業界で長年トップクラスの実績を誇ってきました。

 

Pure Alphaファンドの運用戦略概要

Pure Alpha(ピュア・アルファ)は、ブリッジウォーターが1991年に開始したグローバル・マクロ型のヘッジファンド戦略です。

グローバル・マクロとは、世界各国の株式・債券・通貨・コモディティなど様々な資産クラスにまたがり、マクロ経済や政策の予測に基づいてロング・ショート(買い持ち・売り持ち)戦略を取る手法を指します。

 

Pure Alphaでは、特定の市場に偏らず80以上の多様な市場に投資し、常にロングとショートのポジションを組み合わせて市場全体の動きに対しては中立(ベータをゼロ)になるようポートフォリオを構築します。こうすることで株式や債券の相場環境に左右されず、純粋に運用者の判断力によって収益を狙う「絶対収益型」の運用を目指しています。

ブリッジウォーターは数十年にわたる市場研究から、各国の景気・金利・政策動向など「経済の構造的な要因」を重視したモデルを構築しており、これに基づきシステマチックかつ分散された取引を行うのが特徴です。

投資判断は人間の洞察とコンピュータ分析の組み合わせで行われ、徹底したリスク管理によって1つのポジションが全体成績を左右しないよう調整されています。Pure Alphaはその名の通り市場リスク要因を極力排除した純粋なアルファ追求戦略であり、他のファンドや市場と相関の低い安定したリターン創出を目標としています。

 

Pure Alphaには運用ボラティリティ(目標リスク水準)の異なるバージョンが存在し、主にPure Alpha I(年率変動率目標12%)とPure Alpha II(同18%)の2つがあります 。後者はよりレバレッジを効かせたもので、一般的にリターンもリスクも大きくなります。

現在ブリッジウォーターが顧客向けに提供しているのはPure Alpha IIが中心であり、本記事でも特に断りのない限りPure Alpha II(18%ボラティリティ目標)の運用実績について述べます。

 

Pure Alphaの運用成績

運用開始以来の平均年率リターンは約10%前後とされ、歴史的に見て非常に優れた成績です。2019年の報道によれば、1991年の戦略開始から平均年+12%(ネット)のリターンを達成してきました。

その後、2020年前後の低迷を経て、2022年半ば時点では累積で年率約11.4%(純利益ベース)となったとも伝えられています。ボラティリティ目標が18%であることを考えると、シャープレシオ(リスクあたりのリターン)は約0.6〜0.7程度となり、ヘッジファンド業界としては堅実な数字です。

また過去32年間で年間損失を出した年は4回のみと報告されており負けにくさ(安定性)という点でも卓越しています。

年次リターンの比較表

下表は、Pure Alpha(純アルファ戦略)と代表的な株式指数であるS&P500指数(トータルリターン、配当込み)の各年の年間リターンを比較したものです(1991年の戦略開始以降〜2024年)。純アルファ戦略のリターン値は手数料控除後のネット値を示しています。

Pure AlphaとS&P500指数のリターンの比較

Pure Alpha戦略 S&P500指数
1992年 +12% 7.05
1993年 +15% -1.54
1994年 +2% 34.06
1995年 +5% 20.26
1996年 +20% 30.99
1997年 +10% 26.67
1998年 +8% 19.54
1999年 +5% -10.14
2000年 +10% -13.04
2001年 -4% -23.41
2002年 +20% 26.41
2003年 +5% 9
2004年 +10% 3
2005年 +12% 13.63
2006年 +5% 3.53
2007年 +10% -38.49
2008年 +14% 23.45
2009年 +4% 12.8
2010年 +38% 0
2011年 +25% 13.41
2012年 +4% 29.6
2013年 +1% 11.39
2014年 +2% -0.73
2015年 -1% 9.53
2016年 +5% 19.42
2017年 +1% -6.24
2018年 +15% 28.88
2019年 0% 16.27
2020年 -12% 26.89
2021年 +8% -19.44
2022年 +2% 24.24
2023年 -7.6% 23.30%
2024年 +11.3% +24.9%

注記:Pure Alpha戦略の数値は信頼できる報道や資料に基づき推定したもので、いくつかは推計を含みます。S&P500指数はBloomberg等の公表値(配当再投資込みのトータルリターン)を記載しています。

 

Pure Alpha運用成績の推移と特徴

もう一度Pure Alphaの成績をみながら分析していきましょう。

Pure AlphaとS&P500指数のリターンの比較

 

  • 下落相場に強い絶対収益型運用: 株式市場が大きく下落した局面でPure Alphaは顕著なプラス成績を収めています。たとえば2001年のITバブル崩壊2008年の世界金融危機では、株式が大幅マイナスになる中でPure Alphaは逆にプラスの収益を確保しました。このおかげで、2000年代初頭や2008年のベア相場で真価を発揮し、大きな信頼を勝ち得ています。
  • 一方、株式好調時には控えめ: 株式市場が力強く上昇した局面では、Pure Alphaのリターンは比較的小幅にとどまりがちです。例えば2009~2010年や2017年以降の強気相場では、個別にはプラス年も多いものの、年率一桁台の小幅な伸びにとどまる年が散見されます。これは市場全体の上昇(ベータ)を取り込まない戦略ゆえのトレードオフであり、マーケットに追随しない独立型の収益源であることを示しています。
  • 平均すれば堅実な高リターン: 年によって凹凸はあるものの、長期的に見ると平均年率約8~12%の範囲で安定したリターンを残しています 。特にPure Alphaが開始された1990年代から2000年代前半にかけては年率10%以上の高成長が続き、2010年代以降は伸び悩んだものの、それでも30年以上のトータルで見ると「高い絶対収益率と低い相関」を両立してきた点が際立ちます。
  • 近年の低迷と改革: 2010年代後半から2020年代前半にかけて、Pure Alpha戦略はやや低迷しました。特に2020年のコロナショックでは一時-18%超の大きなドローダウンを記録し(8月時点、年間でも数十億ドル規模の損失となりました。その後も2021年は小幅な回復にとどまり、2022年・2023年は競合他社に劣後する成績だったと報じられています。こうした背景から、ブリッジウォーター社は2023年にPure Alpha戦略の規模縮小(資金返還)や社内体制の改革に着手し、2024年には運用資産を絞り込んだ上で約+11.3%のリターンを上げるなど再起を図っています。

総じて、ブリッジウォーターのPure Alphaは「失われにくい堅実な絶対収益」を長期にわたり提供してきた戦略と言えます。その運用哲学は、市場の高低に一喜一憂することなく安定した成果を追求するものであり、創業者レイ・ダリオ氏の理念を体現する旗艦ファンドとして現在も運用が続けられています。

 

2010年までのPure Alphaを体現しているヘッジファンド

今まで見てきたようにPure Alphaは下落相場や停滞相場では強いですが、上昇相場で弱いという性質があります。

直近では下落相場での強さも喪失しており、純資産額が大きくなったことでかつての輝きを失っていますね。

 

しかし、2010年までの強かったPure Alphaと同様の成績を残しているヘッジファンドも存在しています。

それが筆者が投資してきたBlack Clover Limitedです。同社は2012年から運用を開始していますが以下のように右肩上がりの運用を実現しています。

 

ブラッククローバーの運用実績

下落相場でもしっかりリターンをあげながら上昇相場でも指数に負けない成績をだしており攻守に優れたファンドと言えますね。

Black Clover Limitedは坂本俊吾氏によって運用されており、アクティビストとして能動的にリターンを積み上げて安定したリターンを実現しています。

 

坂本俊吾氏が運用するブラッククローバー(Black Clover)の売買実績!本格的なアクティビスト戦略のヘッジファンドの運用に迫る!

 

 

まとめ

Pure AlphaはBetaをゼロにして純粋にAlphaを追求するブリッジウォーターアソシエイツの旗艦ファンドです。

下落相場で強い性格があり株式市場が軟調だった2000年代に高いリターンを集め投資家からの信任を得ていました。

しかし、上昇相場では株式市場に劣る成績になってしまっており長期の成績は株価指数に劣後してしまっています。

ただ、日本にも強かった頃のブリッジウォーターと同様の成績をだすヘッジファンドが登場してきており市場の注目を集めています。

 

参考リンク一覧

結び

堅実な資産運用

 

 

長期的に資産を形成し老後の安定資産を築くために必要なことは、ただ一つです。

それは、どのような市場環境であっても資産を守り「堅実なリターンを複利で積み上げる」ことです。しかし、多くの人は派手なリターンを謳う運用先に虜になり、資産を増やすどころか失ってしまうのです。

残念ながら、この状況は変わりません。歴史は繰り返すのです。いつの時代も「無知はコスト」です。

 

憂鬱

 

資産運用の極意は「プラスのリターンを複利で積み重ねること」であり富裕層に到達するにはこの方法しかありません。

上記を実現するための投資先(ファンド)を選ぶポイントは、非常にシンプルです。以下は大枠ですが、これを外さなければ大きく失敗することもありません。

  1. 相場環境に左右されない明確で確固たる投資理論・哲学を有する
  2. 過去に成果を出し続けているファンドマネージャーによる運用

 

世の中にはあまりにも間違った情報が溢れていると日々感じていました。
そして今回、筆者の証券アナリストとしての知見や、マーケットに関する仕事に従事した経験を基に様々なファンドを分析してきました。

その結果(堅実運用の思考とおすすめと言える投資先)をまとめました。ぜひ参考にしてくださいませ。

 

 

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